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小売発の金融機関として、お客さまに寄り添い、
リアルとバーチャル、双方の利便性を高める

セブン銀行(以下、当社)を取り巻く事業環境は、劇的に変化しています。デジタル化の進展に伴い、従来の金融機能が細分化、高度化、シームレス化し、グローバルレベルで金融業界の再編が加速しています。また、コロナ禍によって人々の生活様式や価値観も大きく変わりました。社会の中で、金融機関の果たすべき役割や求められる機能がますます変化することは間違いありません。このような大きな転換期においては、従来の金融の枠を超えて、いかにお客さまのニーズを先取りし、斬新でユニークなサービス・機能を提供していくかが重要です。

そうした中、2023年4月6日に発表した通り、セブン&アイグループの株式会社セブン・カードサービスの株式を取得し、当社の連結子会社にすることを決定しました。従来のバンキング事業に加えてノンバンク事業を当社が一体運営し、シナジーを追及することにより、お客さまのニーズに合わせたサービスや金融体験を一体感・一貫性をもって提供することができるようになります。今後は、両社がこれまで培ってきたノウハウ・専門性等を活かしつつ、各種金融サービスをお客さま視点で再整理し、さらにグループ共通の顧客基盤である「7iD」で得られた知見等も活用し、流通小売グループらしい金融サービスの開発やユニークな顧客体験を提供してまいります。

受け継がれてきたDNAを活かし、新たなムーブメントを創り出す

私が当社に入社した頃から変わらずに心掛けていることは、「お客さまの立場で考える」と「新たな挑戦を続ける」ことです。これはセブン - イレブンから脈々と受け継がれているDNAです。金融サービスには非常に厳格な規制やガイドライン、それらに伴う業界常識があります。時代の変化、テクノロジーの進展で見直されるべきものが放置され、それに従うケースも散見されます。しかし、当社は、流通発想の金融機関として、常にお客さまの立場になって、お客さまが本当に望むものを提供することに注力してきました。

そうして誕生したのが当社のATMです。当時は、さまざまな金融機関のカードが一つのATMで入出金できるサービスは世の中に存在しませんでした。入金時の紙幣詰まりは後処理が複雑なため「入金は自行に限る」というのが当時の常識だったからです。こうした業界の常識を覆し、お客さまの利便性を最優先に位置付け、新たな技術開発やリモート対応のスキーム、さらには各種コード決済のチャージ対応やマイナンバーカードへの対応など、さまざまな課題に挑戦してきたからこそ、全国に26,000台以上が設置され、年間9億件以上の利用件数がある社会インフラとして成長できたのだと思います。

また、セブン - イレブンをご利用いただいているお客さまは、生活がより便利に、より豊かになる新しい商品やサービスの提供を期待しています。セブン&アイグループの一員として、お客さまのニーズを的確に捉え、お客さまの期待に日々応えていくこと、そのために新しい挑戦を続けていかなくてはならないと思っています。

当社の最近の事例では、「スマホATM」があります。スマートフォンのアプリを通じて、カードがなくても、セブン銀行のATMで現金の入出金ができる「スマホATM」の誕生は、お客さまのライフスタイルの変化に合わせて生まれた画期的なムーブメントであり、業界に大きな影響を与えました。これに次ぐ新たなムーブメントを創り、業界全体に普及させるとともに、国内のDX推進に貢献することが長期的な目標です。非常に高い目標だとは認識していますが、こうしたビジョンを持ちながら事業を推進していきたいと考えています。

DX化やデータ利活用推進により、
さまざまな取組みをスピーディにスケール化させる

当社は、2021年度より「中期経営計画(2021‐2025)」を実行しています。中期経営計画では、変化から生まれるチャンスをしっかり捉え、「第2の成長」の実現に向けて、「成長戦略」、「社会課題解決への貢献」、「企業変革」を3本柱に取組んでいます。

中計1年目は、コロナ禍による景気低迷やキャッシュレス化の進展など、厳しい環境の中、連結ベースで経常収益が1,366億円、経常利益が282億円となり、前年比減収減益となりましたが、ほぼ計画通りの着地でした。2年目となる2022年度は、連結経常収益1,490億円を見込む一方で、次の成長に向けた意思ある投資を継続するため、連結経常利益は280億円とおいています。しばらく厳しい環境が続くことが想定されますが、新たな価値創造を目指す「ATM+」の世界観の実現、ユニークな商品性の追求とセブン&アイグループとのシナジーの発揮を実践する金融サービス、海外3か国での圧倒的プレゼンスを確立させる海外事業にフォーカスし、トップラインをしっかり伸ばしていくことで、最終年度の経常収益1,700億円の実現を目指します。

そのためのDX化やデータの利活用を積極的、かつ戦略的に推し進めていくことが、私に課せられた課題の一つとして認識しています。

厳しい環境下でも、ATMの提供価値を拡大し続け次のステージへ

確固たる収益基盤である国内ATM事業においては、金融機関のATM代替や駅、空港、商業施設のニーズにより台数は引き続き増加する傾向です。また、マイナンバーカードとの連携や本人認証の領域等、従来の現金プラットフォームとしてのATMの概念を超えたサービスを提供する「ATM+」の世界の構築に向けて、さまざまな取組みが進んでいます。金融機関に対しては、ATMでの顔認証による本人確認を通じて、口座開設や届出事項の変更、継続的顧客管理等のニーズに対応する取組みが始まっています。

さらに、兵庫県加古川市のマイナンバーカードを活用した給付金支払いや渋谷区「ハッピーマザー出産助成金」の給付金支払い等、口座を介さず、いつでも、どこでもATMで給付金を受け取れるサービスを提供することにより、行政サービスの一端を担う取組みも始まっています。現在、行政サービスのDX化において、『誰一人取り残されないUI』の具体例として、ATMの利用価値が再認識されてきています。こうした中、我々は「近くて便利」「信頼と安心」な社会インフラとして、ATMの更なる提供価値の拡大に取組んでいきます。

金融サービス事業では、引き続き口座数や個人向けローンサービスの利用拡大を計画しています。さらに2022年度に開始した証券仲介を始め、サービスメニューの拡大・充実を図る路線を着実に伸ばしていきます。また、セブン・カードサービスとの連携によって、個人のお客さまが求める複数の決済手段、運用・調達手段を、一体化された推進体制の下にラインアップすることで、お客さまの多様なニーズに対して、より簡単でシームレスに、かつスピーディーに対応することができるようになります。

成長領域である海外事業では、すでに展開済みの米国、インドネシア、フィリピンの事業を着実に、スピード感をもって、拡大していくことが重要と考えています。米国FCTI, Inc.では、運用面の効率化を図りつつ、国内同様、サービスの多角化に着手します。一方で、インドネシアのPT. ABADI TAMBAH MULIA INTERNASION (ATMi) やフィリピンのPito AxM Platform, Inc. (PAPI)においては、ATM設置台数の拡大、安定稼働の定着、そして利用件数の増加を目指しています。

5つの重点課題を軸として、本業を通じた社会課題の解決を目指す

当社では、サステナビリティ推進を経営戦略の根幹と位置付け、事業活動を通じて社会課題・環境問題の解決に取組むため、5つの重点課題を定め、全社一丸となって積極的かつ持続的に取組んでいます。世界で約4万台のATMを通じて、安心・安全な決済インフラを提供することは、人々のさまざまな現金ニーズの担い手として、社会課題の解決につながっていると考えています。

また、日本が誰にとっても暮らしやすい国として評価されるように、日本国内にお住まいの外国人の方向けのサービスも多層的に展開しています。スマートフォンアプリから簡単に海外送金ができるサービスのほか、外国人居住者向けのクレジットカードや目的別ローンも提供しています。今後は、日本で生活している外国人だけでなく、徐々に増えつつある訪日外国人旅行客のニーズにも対応したサービスの拡充を検討することで、多文化共生の実現につなげていきます。

セブン銀行では、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の宣言に賛同し、気候変動への対応にも取組んでいます。ATMの世代が変わるたびに消費電力は大幅に削減されており、また、ATM現金輸送回数を減らすことで、現金輸送時のCO2排出量の削減にも取組んでいます。さらに、新しいシステム基盤の土台となるデータセンターの使用電力は、今後すべて再生可能エネルギーで調達する予定です。こうして、さまざまな事業パートナー、また、セブン&アイグループ各社と協働して、深刻化する環境問題の解決に貢献していきます。

社員のITスキルの向上とデータ利用のカルチャーの定着を目指す

企業変革では、引き続きCX(CorporateTransformation)プロジェクトを推進していきます。CXプロジェクトは、社会環境に応じて企業も変わる必要がある中で、働く社員の意識の変化、テクノロジーの進化という視点から、「人材・組織・企業文化」と「データを軸としたビジネスモデル・ビジネスプロセス」の両面における企業変革に取組むものです。新たなムーブメントを創造するためには、全社員が最新のテクノロジーや多様なデータに触れ、それを自由に使いながら業務効率、あるいは新しい商品・サービスの開発を進めていく必要があります。しかし、テクノロジーがすべてではなく、あくまでも「お客さまの立場で考える」ことが大事です。この発想を根幹に持ち、銀行としての専門性や高い品質意識を維持しながら、多様なデータや最先端のテクノロジーを活用できるようになることが、当社の競争優位性につながります。そのため、豊富な経験やスキルを持つ外部IT人材の獲得と併せて、社内のITリテラシーの向上によるハイブリッドな人材強化・組織変革に取組んでいます。

また、当社には、世の中の変化にアンテナを向けて、全社のイノベーションを推進する「セブン・ラボ」というチームがあります。セブン・ラボでは、組織の壁を越え、フレキシブルかつ高速に動き、さまざまなプロジェクトを推進していますが、こうした組織運営を全社的に浸透させたいと考えています。ホラクラシー型組織のように、上下関係がなくフラットで、個人の主体性が重視される組織運営を目指しています。

最先端のデジタル技術を駆使したサービスを提供するためには、データ分析・活用のスキル向上は必須です。実際、インドネシアでは、AIを駆使して設置場所の選定を行っており、現在、全体の約20%はAIが選定した場所にATMが設置されています。このようなデータを軸としたビジネスプロセスを浸透させるために、データマネジメントオフィス(DMO)という組織を2022年4月に立ち上げました。本組織では、各部署が使用したいデータの収集や可視化加工したデータの提供だけでなく、データ資産のセキュリティの担保等にも取組んでいます。こうした取組みによって、各現場にデータ利用のカルチャーが定着することを目指しています。

経営者として大事にしている考え方

私がセブン銀行を経営するにあたり、大事にしたい考えは、「全体デザインを作る」「Whyを大事に」「基準は世の中」の3つです。

「全体デザインを作る」

新しいサービスをデザインするとき、所属する部署に最適化されがちです。本来あるべきは、業務委託をしている事業パートナーを含めた全体最適、DXデザインを時代に合わせ再構成し続けることです。サービス開発には、その時点での課題を早期に捉え即時解決するだけでなく、同時にバージョンアップをし続けるアジャイル開発思想が必須になってきました。そのため、開発工程から各種事象を捉えるためのデータ活用を含めた全体を設計することが大切です。常にお客さまのニーズに柔軟に対応し、他社とのシームレスなビジネス連携とデータドリブンのサービス開発を推進していきます。

「Whyを大事に」

過去の経験や成功事例から、「共感」が最大の推進力になると考えています。社会貢献につながる新たなサービスの開発に着手したり、勢いのあるスタートアップとのアライアンスを組んだりすることで、胸が躍るような熱い想いを抱くと、それがものすごい原動力となります。周囲を巻き込んで、大きな力にするためには、共感マネジメントが重要です。したがって、トップダウンではなく、現場の社員一人ひとりが「なぜ取組む必要があるのか」「これが社会貢献につながるのか」を自問自答しながら、それをアウトプットにつなげて、周りの人たちと熱い議論ができるような組織を構築していきたいと考えています。

「基準は世の中」

一般的には、自身の所属した組織である自部門、自社、業界の中でサービスレベル等を考えがちです。業界の再編が進み、デジタル化が加速している中、比較すべきは自身の所属する組織や業界ではありません。社会の変化やニーズを自ら捉え、今までになかったアプローチにより新たな業界常識を作り上げていく発想が必要です。これまでの経験から「業界常識」というものを一つ一つひっくり返していくと、お客さまの利便性が向上するだけでなく、新しい社会的価値が生まれます。そういった意味で、業界の常識はイノベーションの宝庫です。常識を疑い、社会の変化やお客さまの声に真摯に向き合うことが、イノベーションの創出につながると考えています。

パーパスの実現を目指し第2の成長への布石をうつ

私は、当社の創業期からのメンバーとして、この会社の成長に貢献するべくさまざまな挑戦をしてきました。しかし、世の中は常に変わっています。今までの「成功体験を捨て、常識を疑い、変える」発想で未来を自分たちで作っていくことを継続していきます。 2050年の未来には、コンビニや銀行を取り巻く環境も変わり、人々の買い物体験や金融の在り方も大きく変化しているでしょう。そうした時代であっても、セブン銀行が「近くて便利」「安心・安全」な社会インフラとして確立し続けられるように、今中期経営計画に沿って第2の成長を軌道に乗せ、更なる持続的成長と企業価値の向上に努めてまいります。

今後もパーパスの実現を目指していくとともに、お客さまやお取引先、事業パートナー、社員を含めたすべてのステークホルダーの皆さまからのご期待に応えられるよう取組んでまいります。一層のご支援を賜りますようお願い申し上げます。

株式会社セブン銀行代表取締役社長

松橋正明